貴賤老少 口々に相伝え 前言往行 存して忘れず (2)
古語拾遺に記された状況は、古事記が生まれた背景でもあります。かつてあった人々の有り様が変わっていく失われていくなかで、その有り様を形に残すこと。古事記には生まれることと死ぬことが繰り返し描かれます。生きる伊邪那岐と死んだ伊邪那美の二人が千曳岩を間にして恨み、恐れ、悲しみを交わす。
今、私たちの暮らしの様子はだいぶ変わりました。ありきたりですが、変わらないものもあります。戸籍を読むときに、ふと、そこに書かれている人の出生と死亡とまつわる諸々が、古事記の時代と地続きだと感じます。
千曳岩は堅くて重たいもの、例えばお墓です、そして法律で定められた相続です。それを間にして、私たちは思いを伝えるからです。
私の仕事がそうやって、変わらない大切なことのお手伝いができていたら幸いです。
(了)