貴賤老少 口々に相伝え 前言往行 存して忘れず (1)
小林秀雄「本居宣長」のなかで取り上げられているある文です(古語拾遺という平安時代の資料の序文だそうです。)。
タイトルの意味は、この日本にまだ文字がなかった時代のことを言います。
「身分の違いや老若男女を問わず、人々は大事な物事行いを口伝えして、忘れなかった。」
そして、文字という当時の文明の最先端の発明がやってくると、
「書契以来、古を談ずるを好まず、浮華競いて興り、還た旧老を嗤う。」
ようになった、と。これは、
「文字を使うようになってから、昔のことを話さないようになった。きらびやかなものが流行り、年長者を軽んじるようになった。」。
文字を使い始めた当時の人々の動揺を述べたものです。遙か長い先史のあとで、我々の歴史がいかに短いか、先史は我々の源泉であり文字の始まりは人間の意識が立ち上がるのと同義である。
学生時代読んだ時、そのように理解しました。この仕事(相続に関する手続き)をしながら、折に触れて考えます。
(続く)